「自分の描きたいものを描く」イラストレーター須田浩介氏の創作論

 生き物が持つ生命力やパワーを独自の視点で解釈し、イラストで表現する須田浩介さん。今回はそんな須田さんに“創作の源泉”や、 “描くことへのこだわり”について伺いました。
 また、「元気の源となる“推し”も、信仰の一つである」という興味深い考えについてもお聞きしました。須田さんのファンやイラストレーターの方はもちろん、「推し」がいる方も必読の記事です!

須田浩介 / Kosuke SUDA


Illustrator
1987年生まれ。
2008年創形美術学校ビジュアルデザイン科イラストレーション専攻卒業。
フランス・パリ国際芸術会館シテデザールに9ヶ月派遣。
2008年〜2013年発行「Free Art Magazine S」編集者兼、掲載アーティスト。
跡見学園女子大学、創形美術学校、千葉デザイナー学院でイラストレーションの非常勤講師。
アクリルガッシュを使用した人物、動植物のイラストレーションを得意とする。
商業施設のキャンペーン、書籍、雑誌挿絵、ポスター等の仕事を手がける。

目次

――須田さんの作品には、動物が登場するものが多いですね。多くの作品の根底にあるもの、共通しているものは何ですか?

 テーマや根本的なものは昔から変わっていません。特にギリシャ神話とか神様みたいなものが面白いと思って描いています。でも神様と言っても、宗教的な神様ではなく、もっと原始的なものに興味があります。

 動物や生き物が持っているパワー、生きる力みたいなものも好きです。2019年に個展「VIVANT MODE」をやったときは、「人と動物」というテーマで動物の服を着てる人たちを描きました。原始的な生活をしている人たちは生き物に対して信仰心があります。そのパワーを借りるために毛皮を羽織ったり、強い生き物・美しい生き物を模したメイクをしたりします。これがファッションのルーツだなと僕は思いました。

2018年発売『ファッションイラストレーション・ファイル2018』の表紙になった作品。

 今は、自分を助けてくれるものに宿るパワーや思いにフォーカスして描いています。今の言葉で言うと、「推し」も僕は一つの信仰だと思っています。自分の元気の源になりますよね。今後は自分自身の好きなものや大事なものへのパワーとか信仰をテーマに、作品を作っていきたいです。

――他には、どのようなものから影響を受けていますか?

 自分が幼少期に好きだったものとか大事だったものの影響が大きいです。ゲーム、アニメ、漫画、映画、音楽などですね。

 みんな成長すると、当時すごく好きだったものを捨てちゃう時期がありますよね。僕は中学生の頃 B’zが好きで「僕は人生で絶対一度はライブに行くんだ!」ってよく言ってたんです。だけど、中学生で行けるわけもなく、高校生の頃にはもう離れてしまいました。でも、30歳を過ぎてからライブに行く機会があったんです! ちょうどB’zが結成30周年で、僕が好きだった曲をライブでいっぱいやってくれました。

 そのときに、中学生の頃の僕が成仏したような気持ちになったんですよね。あの頃すごく好きで大切にしてたものや影響を受けたものは、もう僕の根っこになっていて、それが描きたいものの芯になっていたんだなっていうのに気付いたんです。動物が好きなのも、当時テレビで動物特集を毎週観ていたことが元になっています。「こういうものに僕は救われてきたんだな」、「こういうものが好きだったから今があるんだな」と。だから、自分のルーツが創作の元ですね。

取材の前にいくつかガチャガチャを回してきたと笑う須田さん。
ご自宅には、かわいいコレクションが沢山あるようです。

――お仕事をするうえで、心掛けていることは何ですか? 流行りを追うことも大切なのでしょうか?

 確かに、イラストレーションを仕事とするには、流行り廃りをちゃんと追うことが大事なんですが、僕は表現と流行りをあまり繋げないようにしています。多分、流行は一過性のものなので、「今」流行ってるものを「今」追いかけちゃうと遅いんです。だから、流行りを追いかけるよりは、自分の持ってるものの根っこの部分の濃度を上げていく。その方が僕にとってはいいなと思い、最近は自由にやっています。

 僕は、自分の作品がアートピースとして売れたらいいなとずっと考えてます。なぜなら、買い手がついた際に自分の表現したものに必要性が生まれる気がするからです。絵が誰かの元に行くっていうのはすごく嬉しいですし、やりがいにもなります。その一方で商業的な仕事は、自分の描きたい表現と完全に一致するものばかりではありません。依頼された仕事には今できる最大限の力で応えたいと思っていますが、自分の表現したいことと依頼がマッチしたときは特に嬉しいです。

「アートピース」とは
芸術作品のこと。ここでは、広告や商品パッケージなどの商業的な場面で使用されるイラストレーションではなく、イラストレーター自身が表現したいものを自由に描いた作品のことを指す。

ハローキティ50周年記念【ハローキティ展】のアーティストコラボコーナー 『Hello! Friends』に展示されている作品。
日時:2024.11月1日~2025.2月24日 会場:東京国立博物館表慶館(上野公園)

――絵を描くことは、純粋に表現したいものがあるから描くという側面と、生活のために売れる絵を描かなければいけないという側面があると思います。その中で、「売れる絵を描かなきゃいけない。でも描きたいものとは違う」と葛藤されたことはありますか?

 葛藤はありました。20代の頃には、もう絵を描くのはやめて普通に就職した方がいいのかもしれないと何度も考えました。このままの画風で行くとこの先苦しくなるのではと考え、シフトしたこともあります。

 でも、売れる/売れないもそうなんですけど、僕の人生から「描く」ことを取り上げちゃうと、手元に残るものが何もないなと思ったんです。何でも捨てちゃうのって簡単なんですよ。別に今この瞬間でも「やめました宣言」ってできますから。でも、いつでもやめられるからこそ、やめない方がいいなと思っています。

 そうなってくると結局、描きたいものしか描けなくて商業イラストレーションという枠で見るとどんどん外れていってしまっているのかもしれないなと思うんですよね。

――須田さんは座右の銘を「描きたいことを描けることは幸せ 」とされていますよね。

 そうですね。描きたいことを描けるのは本当に幸せだと思っています。

 今は美術学校の講師の仕事でも収入を得られているから、ちょっと気が楽になったのかもしれないです。イラスト1本だけって思っていたときは色んなことがしんどかったです。バイトをするときにも「これが絵を描くということの一体何にリンクするんだ。これ多分生きるってことにしかリンクしてないよ」と思ってしまうこともありました。講師の仕事があるから「僕は好きなものを描けて幸せです」とのんきなことを言えちゃうんです(笑)。

 学校の生徒たちも将来のことを考えなきゃいけませんが、僕みたいな生き方は絶対にしない方がいいって思います。大変だから。今まで流れるままに生きてくることができたのは本当に運が良かったなと思います。周りの人に恵まれていました。

「鬼」
須田さんが好きな漫画『うる星やつら』に出てくる青鬼のラムちゃんへのリスペクトが込められた作品。

    私は初めて生の須田さんの絵を観たとき、目を離すことができず飲み込まれそうになりました。絵全体から湧き出す、並々ならぬ「生」のパワーを感じたからです。
 今回の取材では、それだけの力を放ち、観る者を惹き付ける須田さんの絵の根幹にあるものを垣間見た気がします。「好き」になったものから受けたパワー、動物や神様の力を源泉とし、強いこだわりの元、描き上げられた須田さんのアナログ作品。「生」で観てこその魅力を存分に感じました。皆さんもぜひ、作品を直接観るからこその良さをご体感ください!

 

次回予告
須田浩介さんインタビュー第2弾「【伸びる人の共通点】イラストレーター兼美術講師・須田浩介氏が語る、「ウサギとカメ」の教訓」は近日公開です。お楽しみに!

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